メルマガ118

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「森の駅発」メルマガ NO.118 2019 June
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★ 6月の野外学習報告 大森 明
 「雨の小石川植物園」
★ ノート:桜井尚武先生のお話から 戸田 吉彦
 「イチョウ・ソテツの精子発見と日本の植物学」
★ 新・連載エッセイ/山小屋通信 大森 明
 「腐ったウッドデッキ材で廃材アート」
★ 7月のご案内 
「森の駅推進協議会 7月例会のご案内」
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6月の野外学習報告 大森 明
「雨の小石川植物園」


6月15日、4月の皇居東御苑での勉強会に続き、桜井尚武先生を講師に迎え、
文京区にある小石川植物園で野外勉強会を行いました。
小石川植物園の正式名称は「東京大学大学院理学系研究科附属植物園」といい、
江戸時代に徳川幕府が小石川薬園を当地に開設したのを始まりとする長い歴史を持っています。
面積も48,880坪(161,588m2)あり、東京ドーム3つ分以上の広さです。
この日はあいにくの雨でしたが、雨にもマケズ、正門をスタートして右手の林の中へ。
街路樹で見かけるシナユリノキは中国原産だが、カヌーにするアメリカ原産のユリノキと同属、
拳の形に見える実が梨の様な味がするケンポナシなど、興味深い解説に引き込まれていきます。
森の発するパワーのおかげか集中力が増し、雨も気にならず先生の言葉がすっと頭に入ります。

林からいったん出ると、開けた場所にソテツが生えています。
これは明治時代に帝国大学理学部教官の池野成一郎氏が、
ソテツの精子を世界で初めて発見したのを記念して植えられたものだそうです。
この発見の数年前には当園の平瀬作五郎氏がイチョウの精子を世界で初めて発見しており、
そのイチョウの木は園内に現存しています。
それまで裸子植物はすべて受粉すると花粉管が胚珠まで伸び受精すると考えられていたので、
世界中の学者が注目した大発見だったということがわかります。
正直なところ精子が自ら移動していき受精する樹木があるのには驚きました。
このほか園内には「ニュートンのリンゴの樹」や「メンデルの葡萄の樹」も植えられ、
それぞれ感心しましたが、当方には万有引力発見のリンゴや遺伝法則研究のブドウよりも、
ソテツやイチョウの精子に驚きしばらく頭の中は泳ぐ姿の想像で膨らみました。

樹の話に戻り、園内で出会った樹をいくつかご紹介します。
ハグマノキ・ ・・ちょうど開花後の時期でしたが別名smoke treeといい、姿が個性的な樹です。
トチュウ・・・姿は普通ですが生活の中で(葉が)杜仲茶としてお世話になっている樹でした。
メタセコイア・・・1943年に三木茂が発見命名した化石植物。その後中国で現存種が発見され、
        戦後米国を経て天皇陛下に種子が送られ、挿し木で増えた木々がここに。
センペルセコイア・・・世界一高い木。米国西海岸に分布し、樹皮が分厚くふかふかの樹です。
ラクウショウ・・・湿地に生え、気根をにょきにょき地面に出している樹です。
タラヨウ・・・別名ハガキの木。葉裏に文字を書くとクッキリ残り、文字通り「葉書」です。

また1本1本の樹ではなく、森や林としても興味深いエリアがありました。
高台下の傾斜地・窪地のクルミ林は、よく訪れる信州の渓流沿いのクルミ林と錯覚するほど、
自然な風情で植生されていて、都内23区内にいることを忘れるようでした。
また前述のメタセコイアなどの針葉樹林は、深い森林に分け入ったような雰囲気でした。
新緑がとても綺麗なカエデの木々の下では先生から「カエデとモミジの違い」を教えられ、
帰宅後に家族にカエデとモミジの違いを力説しましたが、家族の反応はイマイチ。
先生のようにはうまく話せないと痛感しました。

最後に立ち寄った柴田記念館は、レトロで洒落た雰囲気の建物で、
館内には昔の写真・植物研究の道具類・植物画などが展示されています。
よく見ると植物画はグリーティングカードとして販売品されていました。
何十種類もあり、植物画の好きな人には嬉しい品です。
今回は午前中で園内を回りましたが、じっくり1日かけて回っても楽しめる植物園でした。

なお今回の写真を桜井先生が YahooBox にまとめて下さいました。
https://yahoo.jp/box/goiHPt

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ノート/桜井尚武先生のお話から 戸田 吉彦
「イチョウ・ソテツの精子発見と日本の植物学」

先のレポートで大森氏も触れておられますが、小石川植物園で実際の木を前に伺った
イチョウとソテツの精子発見のエピソードは私にも大変衝撃的でした。

ひとつは樹木の中に精子を持つ種があり、それも我々に身近なイチョウとソテツということ。

そして長い鎖国から開国間もない日本は、海外の学者を招聘し追い付けという文明開化の時代、
日本人の手による世界で初めての発見は、日本の植物学の評価を世界に一躍高めたこと。

さらにソテツの精子発見者の池野成一郎が、その功績から学士院恩賜賞の候補に上がった時、
池野は、先にイチョウの精子を発見した平瀬作五郎と同時受賞でなければもらわぬと断り、
結果的に二人同時受賞にいたった美しいエピソードに心打たれました。

池野は当時助教授、生家は旗本で帝大卒のエリート、後にはドイツの大学で教授に就任。
平瀬は油絵を学ぶため上京し、当初は画工としての勤務からスタートした研究所の一技手。
平瀬より10歳年下の池野は、当初平瀬のイチョウの精子発見の手助けをしていたそうです。
後に自身もソテツで精子を発見するに至り、その功に対しての帝国学士院の恩賜賞でしたが、
明治というまだ厳しい身分制度の残る時代、池野は平瀬の功績を無視するを恥としたのです。
武士道がまだ生きていたのかもしれませんが、植物学界に限らず伝えるべきだと思いました。

桜井先生の次々と続く樹木や植物の解説に、記憶が付いて行けず不安な小生でしたが、
今はネット検索で調べられる便利な時代との助言を思い出し、帰宅後ここを先ず復習。
改めて日本の誇り高い植物学の一端にふれる想いでした。
詳しくは以下のサイトに紹介されていますのでご覧ください。

イチョウの精子の発見 < Journal of Plant Research | 日本植物学会
bsj.or.jp/jpn/JPR/digital/icho1.php

池野成一郎のソテツ精子発見 < Journal of Plant Research | 日本植物学会
bsj.or.jp/jpn/JPR/digital/sotetsu.php

精子発見とその意義 - 東京大学
umdb.um.u-tokyo.ac.jp/DPastExh/Publish_db/.../0300.html

ソテツの精子・動く植物図鑑 Cyeas revoluto Thunb. 科学映像館 - YouTube
www.youtube.com/watch?v=9Dk7db1UVDs

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新・連載エッセイ/森の工房レポート 大森 明
「腐ったウッドデッキ材で廃材アート」

山小屋のウッドデッキが腐朽菌にやられ、大規模に修理する事態になった。
撤去した古いウッドデッキ材はかなり腐っているが、簡単に廃棄はしない。
今まで信州の山奥で風雪に耐え、近年めっきり強くなった紫外線を浴び続けながら、
頑張ってきたウッドデッキ材をホイホイ捨ててしまっては、木に申し訳ない。

腐ってボロボロになった部位だけを切除した後、木工作品にする。
くぎ穴や割れなど何のその。
鋸・のみ・小刀・やすりなどで切って削って磨いて、
目指すは廃材アート(人はガラクタと呼ぶ)。

今回はウッドデッキ材に防虫防腐塗料の濃い茶色が
どこまで浸み込んでいるか気になっていたが、
切ったり削ったりしていくうちに材に浸み込んでいた塗料の色は無くなり、
本来の木の色が蘇ってきた。
昔の木の電柱ほどには浸み込んでいないようだ。
20年以上前のレッドシダー材だが赤みが少なく白っぽい部位だったようで、
明るい木目が綺麗に出てきた。
木って素晴らしい。プラスチックではこうはいかないだろう。

ある程度削ったところで材の形やサイズを見て、
まずは木製の野ネズミをつくることにした。
野ネズミには山小屋周辺だけでなく、
床下や室内で鉢合わせにしたことがあるので、その姿をイメージして作った。
耳をそぎ落としてしまうと違う動物になってしまうので気をつけたが、
それ以外は柔らかい材で加工しやすかった。
最後に尻尾をアケビのツルでつくり、「開眼」して完成となった。

年初につくった木製イノシシは干支の置物として、
親戚や信州の馴染みの酒屋さんなどに置かせてもらっているので、
この“廃材ネズミ”も来年の干支の置物として年末にあちこちに出没させようと思う。

余談:一匹では寂しそうなので、剪定した松の小枝で子ネズミを作り親子ネズミにした。
写真:ノネズミの親子(筆者制作・撮影)

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7月のご案内
「森の駅推進協議会 7月例会のご案内」

森の駅推進協議会の7月の懇親会は、7月18日(木)午後5時より行います。
今回は森林総合研究所OBの研究者の方々と合流する予定です。

場所は「居酒屋かあさん」東京都中央区八重洲1-7-10 中坪ビルB1F Tel.03-3231-2601
JR・メトロ丸ノ内線 東京駅 八重洲北口徒歩3分 メトロ銀座線 日本橋駅 A1出口徒歩3分

お申し込み・お問い合わせ/担当 戸田 TodayofMus@icloud.com 090-9156-1554